弊社のコンテンツパートナーであるTECHBLITZの編集部により、自動運転トレンドレポートが発表されました。「自動運転」に関連するOverviewや幅広いカテゴリーの世界の最新スタートアップ情報に焦点を当てた「自動運転トレンドレポート」となっております。本レポートの中では、TECHBLITZとの連携のもと、弊社が作成いたしましたインサイト特集「日中アクセラレーターが解説する中国自動運転の注目動向」を掲載しております。
※インサイト特集「日中アクセラレーターが解説する中国自動運転の注目動向」(以下、本特集)は、匠技新(上海)創業孵化器管理有限公司(以下、弊社)が作成したものです。本レポートは2023年7月 TECHBLITZ / BLITZ Portal「自動運転トレンドレポート」に掲載されました。本レポートの短縮版をご希望の方は、こちらを通じてお気軽にお問い合わせください。
中国乗用車の自動運転最新動向
中国で行われる最大規模のモーターショーといえば、隔年交代で実施される北京モーターショーと上海モーターショー。2023年4月18日~2023年4月27日に行われた上海モーターショーは、前年の北京モーターショーが開催中止となったこともあり、国内外で大きな注目を浴びました。まずは、その上海モーターショーでの中国企業の新製品発表や展示内容から、中国自動運転の動向を解き明かします。
上海モーターショーから見る中国自動運転の「落ち着き」
今回のモーターショーは、近年のそれとは異なり、「レベル4」のような自動運転の技術の発展にスポットライトを当てるというよりも、逆に、「レベル2(状況に応じて手動運転に切り替える)」や「レベル3(特定条件下で自動化・緊急時には運転者が操作)」の間のハイエンド補助運転ソリューションにフォーカスした傾向がありました。とりわけ、各社ブースで最も多く大々的に取り上げられていたのは、「高階智駕(ハイエンドスマート運転)」や「行泊一体(スマート運転機能と自動駐車機能を1つのドメイン制御ユニット上に統合し、実現すること)」でした。
この2つの技術方向性の中核となるのは、レベル2以上の自動運転を可能にするADAS(先進運転支援システム)です。このADASシステムを不断に改良することで、都市部や高速道路でのNoA(Navigation on Autopilot、ガイダンス運転支援)機能を実現すると同時に、自動運転に必要なアルゴリズムの開発要求が自然と低下。加えて中国では、電気自動車のコストに対する要求が日々増すにつれて、レベル2以上の自動運転を可能にする製品のみならず、完成車に対してより高いコストパフォーマンスが必要とされてきました。米テスラは、その市場のトレンドに対していち早く完成車の長期的な大幅値下げに呼応した代表例でしょう。
このように、ADAS技術の短期間における改良更新と日々激化する価格競争を背景とする中国は、より現実的な安全性が保たれたスマート運転システムの完成車への実装率が世界最大の市場とも言われています。
見逃せない「3大新勢力ブランド」 中国スマート運転の先鋒へ
まるでその上海モーターショーの開催を分岐点とするかのように、中国の新エネルギー自動車市場では、顕著な変化が発生しました。それは、中国自動車業界の「BAT(BYD、AION、TESLA)」の登場です。この3文字は、2023年4月の中国新エネルギー自動車製造企業の車両販売台数ランキングにおいて、トップ3に躍り出た3社の頭文字を取ったもの。同月には、この3社のみで全体販売台数の52%を占めるに至っています。
一方で、以前から3大新勢力ブランドとして同市場を盛り上げている「蔚来汽車(NIO)」「小鵬汽車(Xpeng)」「理想汽車(Li Auto)」の3社は、設立当初からハイエンド向けのスマート電気自動車として、スマート運転の機能性を不断に強化。上海モーターショーとその前後では、新しいスマート運転機能やその機能を搭載する予定となっている従来車種の新型モデルの発表の場を設けました。
確かに同3社は、販売台数の点から見た場合、コスト抑制能力や自社の産業チェーンの優位性、そして市場ニーズの洞察力において特長を備えるBATには大きなリードを取られています。しかし、今後も長期的に自動運転を一般ユーザーに普及していく方向性を占う重要プレイヤーとして、依然として注目すべきと弊社は考えています。
中国乗用車の自動運転の実態
高望みの概念追及から着実な商業化実装へ 小鵬汽車を例として
その3大新勢力ブランドの中で最も自動運転技術を中核的な戦略に据えているのは、小鵬汽車だといっても過言ではありません。その強みは、2019年ごろから本格的に始動した、自動運転技術の段階的なアジャイル開発とその量産実装を進めていることにあります。その片鱗は、主に3つの面から浮かび上がってきます。
1つ目は、自社の自動運転の量産化に関するロードマップを早くから明確に描き、同時に現在まで、その計画通りに実行を進められていることです。同社は2019年前半を境に自動運転技術のロードマップを年別に分け、スマート運転システムのバージョン更新に伴い、どのようなシーンでどの機能を達成するのかを明確化しています。同時に、研究開発関連を主とした内部人員の90%をレベル2からレベル3の自動運転技術に投入。同社のスマート運転システム「XPILOT」は、毎年大きな進展を伴うバージョン更新を行い、2022年には「XPILOT 4.0」まで進化を遂げたのち、2023年には「XPILOT 4.0」を基礎とした第2世代ハイエンドスマート運転支援システム「XNGP」を発表しています。
小鵬汽車の新旧自動運転ロードマップの比較
出典:天風証券(TF Securities)、ジャンシン(匠新)が整理
2つ目は、代表車種を筆頭に、市場において一定以上のシェアを獲得すると同時に、最新のスマート運転補助システムを段階的に開放していくというアプローチを採用していることです。同社のファミリーセダン「P5」とスポーツセダン「P7」は、15万元から30万元という最も人気のある価格帯を攻めており、テスラの主力車種である「Model3」が好敵手に相当します。また2023年5月の最新の販売台数でも、上記の2車種は同社のトップ2となっています。一方で、自動運転の機能性の面から見た場合、「Model3」をはじめとした同価格帯の競合車種よりも強力なコンピューティング能力を有するチップとより多くのセンサーを搭載していることもあり、非常に優れたパフォーマンスが評価されています。
小鵬汽車の主力製品「P5」「P7」と他社製品の比較表(左)と価格レンジ別で見た中国の電気自動車販売量の推移およびその予測(右)
出典:天風証券(TF Securities)、ジャンシン(匠新)が整理
最新のスマート運転支援システム「XNGP」は、2023年上半期には北京、上海、深セン、広州といった大都市、2023年下半期にはその他地方都市などを対象に、都市ごとにスマート運転補助システムを徐々に開放していく予定です。こうして、既存の高精度地図がカバーしていないエリアでも、自動運転機能が使えるようにしていくことで、価格と使用の面から、自動運転の体験に伴う敷居を複合的に下げていることが分かります。
そして3つ目は、業界で初めて、ハードウェアに改造を加えずに直接ロボタクシーとしての大規模運用に電気自動車を投入しようとしていることです。同社は、自社の車種「G9」のハードウェア部分に追加の改装や専用の開発を加えずに、ソフトウェアのアップグレードを実施。その同車種を導入し、ロボタクシーサービスの試験を開始する計画を2023年4月に発表しました。同年下半期には、同社の本拠地でもある広東省広州市にて、あらゆるユーザーを対象に、このサービスの試験運用を開始する予定とされており、注目の動向です。
小鵬汽車の車種「G9」ロボタクシーサービスのイメージ
出典:小鵬汽車(Xpeng)
ロボタクシーの連携モデル「鉄三角戦略合作モデル」
小鵬汽車が参入を挑むロボタクシー事業。これは、現時点で最も高度な自動運転を、一般ユーザーが身を以て体験できる唯一の方法であり、自動運転の最前線とも言えます。ここでは、注目すべき1つの切り口として、中国のロボタクシー業界の特徴を取り上げます。
まず、中国には4つのロボタクシーサービスのビジネスモデルがあるとされています。そのうち、中国で比較的主流とされているのは、「全面許可モデル」ですが、これはさらに複数の企業が連携する「鉄三角戦略合作モデル」と1社が自社の産業チェーンで完結させる「単独推進モデル」の2つに分かれます。
中国国内のロボタクシーサービス展開における4つのビジネスモデルのイメージ図
出典:Roland Berger(ローランドベルガー)、ジャンシン(匠新)が整理
「鉄三角戦略合作モデル」は、中国で最も早くにレベル4のロボタクシーサービスの一般ユーザー向け全面開放を開始した自動運転技術企業「文遠知行(WeRide)」が提唱。同社は、地方政府やその政策を中心に据えて、自動車製造企業、自動運転技術企業、モビリティサービス運営企業を筆頭とするプラットフォーム企業の3種類の主体が連携し、全国各地における自動運転の商業化実装の形を探索しています。
中国で比較的主流とされているロボタクシーサービスのビジネスモデル「全面許可モデル」のうちの1つ「鉄三角戦略合作モデル」
出典:文遠知行(WeRide)、ジャンシン(匠新)が整理
このモデルは、中国の大都市を中心として広く展開されています。例えば、広東省広州市における「広州汽車(GAC)」「小馬智行(Pony.ai)/文遠知行」「如祺出行(ON TIME)」、上海市における「上海汽車(SAIC)」「Momenta」「享道出行(シャンダオチューシン)」の連携がその代表例に当たります。
一方で、「単独推進モデル」は中国の大都市のみならず、地方都市でも展開が見られています。このモデルを採用している代表例には、傘下に自動運転プラットフォーム「Apollo(アポロ)」を擁する百度(バイドゥ)があります。
加えて、上記で取り上げた小鵬汽車は、百度同様に、ロボタクシーの予約ができるプログラムを用意していくことに言及しているほか、ネット配車サービスの運営企業も設立。さらに、同社の車種「G9」は、百度が2022年7月に発表した第6代量産型無人運転車「Apollo RT6」よりも、一歩早くその量産開始を実現しています。これらの点から、同社は、現時点で、百度に最も近い存在だと捉えることも可能です。
ここまで、いくつか中国の自動運転関連企業について触れてきた中で、最後に強調したいのは、中国インターネット業界の「BAT」の1つである百度が総合的に見て、中国自動運転の先駆者であるということです。同社の自動運転タクシー配車サービス「蘿蔔快跑(ルオボークワイパオ)」は、北京と上海、広州、深セン、武漢、重慶など10都市以上でサービスを開始しており、23年1月末までの累積受注(乗車)件数は200万件を突破。世界最大の自動運転タクシー配車サービスとなっています。レベル4の自動運転試験走行による累計走行距離は23年6月中旬までに6000万キロメートルを超えており、自動運転関連特許数は4600件以上に上ります。
自動運転タクシー配車サービス「蘿蔔快跑(ルオボークワイパオ)」の自動運転タクシーの様子(左)と米調査会社ガイドハウス・インサイツが発表した自動運転技術競争力ランキングを示す図の一部(右)。左下から右上にかけて、「FOLLOWERS(追随者)」「CHALLENGERS(挑戦者)」「CONTENDERS(競争者)」「LEADERS(主導者)」となっている。
出典:百度(バイドゥ)
同社は、現在中国で発展している多くの自動運転技術企業にとって生みの親であるといっても過言ではないでしょう。弊社調査によれば、現在中国でロボタクシーサービスの商業化実装にこぎつけている自動運転技術企業は8社あります。そのうち、百度を除いた「小馬智行」「文遠知行」「元戎啓行(DEEPROUTE.Ai)」の3社は、以前百度の自動運転事業部に在籍していた技術者が現在各社のCEOを務めています。こうした観点からも、百度は、中国自動運転業界をけん引する不可欠な存在だと言えます。