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達闥科技(CloudMinds)
【会社概要】
達闥科技(CloudMinds)は、15年8月設立の中国スタートアップ企業で、世界初のクラウド型スマートロボットの運営を行っている。同社は23年7月6日にシリーズCで10億元(約202億円)の資金調達に成功した。
今回の投資には、上海市政府の認可を受けた国有大手資本投資・運営プラットフォーム企業「上海国盛集団(Shanghai Guosheng Group)」と、PE(プライベートエクイティ)ファンドの管理・運営・投資業務を行う専門金融機関「水木春錦資本(Watere Capital)」、そして中国広東省広州市の開発区で最も早く設立された国有企業の一つ「知識城集団(KGI Group)」が参加している。同社は、23年中に香港で上場する予定があるとされている。
【プロダクト】
達闥科技は19年、初の自社開発・製造ヒューマノイド・サービス・クラウド型ロボット「CloudGinger」を発表。当時のロボットは、基本的な動作のみ可能で、耐荷重はわずか1キログラムであった。その後、22年9月に中国上海市で開催された世界人工知能大会(WAIC)で、「CloudGinger2.0」を発表。この最新のロボットは、5キログラムの把持力(指でつかむ能力)を備え、かつ自由に動ける角度を持つ器用な手を駆使する。さらに、手と目の高精度な同期能力や、手を使ってものをつかむための高度な操作能力も備える。
また達闥科技は22年の同社イベント「達闥グローバル開発者大会(HARIX GDC)」において、自社で独自開発した世界初のロボット専用OS「HARIX OS(海睿操作システム)」を発表。これにより、クラウド側で複数のロボットが「頭脳を共有する」ことで、すべてのロボットのスマート化を進めることが可能となる。加えて、専用のロボットOSが存在することにより、ロボットの応用開発における高いハードルとコストという課題を解決。さらに、通信規格5Gによるロボット専用セーフティーネットを構築することで、安全でスマートかつ効率的な通信も実現している。
達闥科技のヒューマノイド・サービス・クラウド・ロボット「CloudGinger2.0」
(画像は達闥科技のニュースリリースから)
注目したいのは、達闥科技は23年の同社イベントで、複雑な応用シーンにおけるロボットのマルチモーダル(コンピュータービジョンなどの技術を利用して獲得した複数の情報を同時に処理すること)な動作を実現するための対話生成AI(人工知能)モデル「RobotGPT」を発表したことだ。
クラウド側の頭脳にアクセスするロボットは、このモデルを通じて、人工的なフィードバックの強化学習を実践し、学習能力を継続的に向上させることができる。達闥科技のロボットは、人間のような対話およびコミュニケーションに加えて、歓迎・接待から誘導案内、自動巡回、同行および自立支援、そして人間との協働までを含めた動きが可能なため、人間のような働き方も可能になる。今後は、スマートシティー、スマート農業、スマートヘルス、ハイエンドのスマート製造、スマート教育といった産業への応用に期待が寄せられている。
達闥科技が開発したAIモデル「RobotGPT」を搭載したロボットが、
中国の家具磨きの工場現場で投入されているイメージ図
(画像は達闥科技のニュースリリースから)
前海粤十(YUE SHI SCF)
【会社概要】
前海粤十(YUE SHI SCF)は、17年4月設立の中国スタートアップ企業で、AIによるコールドチェーン(低温物流)サプライチェーン管理プラットフォームの構築に注力している。同社は23年7月6日にシリーズBで6億2000万元(約125億2400万円)の資金調達に成功した。
今回の投資には、中国最大の食糧と食用油、食品を取り扱う国有企業「中糧集団(COFCO)」が主導で設立した投資プラットフォーム「中糧農業産業基金」や、主にアーリーステージにある新興企業への投資に特化した投資企業「創業工場(VenturesLab)」、そして深センで最も早くVC(ベンチャーキャピタル)事業を開始した企業の一つ「深セン高新投(HTI)」などが参加している。
【プロダクト】
前海粤十は長年にわたり、デジタルコールドチェーン技術の研究開発に継続的に投資しており、同社のデジタルコールドチェーン技術製品は、既にコールドチェーン産業チェーンの全方位のニーズをカバーしている。同社はAIによるコールドチェーンのサプライチェーン管理プラットフォーム「粤十」を構築。デジタルツールを使用して、従来の複雑かつ非効率な管理方式を、可視化したデジタル管理方式に変換することに尽力。これにより、倉庫の回転率や入出庫プロセス文書の処理効率、倉庫での貨物の積み込み、そして積み下ろし作業の効率を20%向上させることができる。
また、スマートフォークリフトやPDA(携帯情報端末)、RFID(無線自動識別)タグなどの技術を組み合わせると同時に、労働力に沿った合理的かつ効率的なタスク割り当てにより、運用維持コストを23%以上削減することができる。「粤十」は既に全国500以上の輸送幹線をカバー。グローバルのコールドチェーンパークで農作物を3500万トン以上、また21万人以上の農産物のエンドユーザーにサービスを提供してきた実績を持つ。
粤十デジタル・コールドチェーン・クラウド・プラットフォームの画面上の様子
(画像は前海粤十のニュースリリースから)
前海粤十は、早ければ23年末に、株式市場での上場を完了する計画がある。同社は23年から25年までに、ブラジルの畜産業とその他の実物産業を対象とし、業務を展開していく予定。港湾から物資を直接供給するというビジネスモデルを開拓し続けることで、3年以内に500億元(約1兆100億円)の収益規模を達成するよう目指している。
前海粤十のコールドチェーントラック
(画像は前海粤十のニュースリリースから)
徳和生物(energae)
【会社概要】
徳和生物は、16年5月に設立された中国スタートアップ企業で、微細藻類原料の全産業チェーンを対象とした企業向けサービスプラットフォームの構築に注力している。同社は23年7月27日にシリーズBで数千万元(数億~十数億円)の資金調達に成功した。
今回の投資には、広東省深セン市に位置する資産運営・管理会社「福鵬資産」が参加している。徳和生物は、今回の資金調達を受け、主に1000トンレベルのヘマトコッカスプルビアリス(ヘマトコッカス属の藻類)の生産力を拡張させ、その年間生産額が数十億元に達する見込みがある。上海鯨藻プロジェクトの建設を推進すると同時に、製品のさらなる研究開発ニーズへの対応を進めることに充てられる。
【プロダクト】
徳和生物は、独自に微細藻類培養の技術を研究開発。太陽光としての光エネルギー源を人工光に置き換え、数種類の高含有量・高品質の微細藻類原料を提供している。これにより、医薬品、健康食品、食品・飲料、化粧品などの領域における微細藻類原料の供給問題を根本的に解決しようとしている。
徳和生物の各子会社は互いに補完関係にあり、それぞれが異なる位置付けを持っている。今回は、そのうちの3社について簡単に紹介する。
1社目の德和(上海)研究開発センターは、同社の中核的な研究開発センターとして位置付けられており、合成生物学研究や微細藻類医療・栄養研究、微細藻類カーボンニュートラルとリサイクル産業化研究、そして微細藻類食品応用研究の4つのテーマに分かれて研究開発を行っている。
2社目の安徽德宝生物は、微細藻類の工業生産と製造を実現している中国初の企業。天然アスタキサンチン、天然フコキサンチンなどの高付加価値微細藻類を豊富に含む藻類の製造、抽出、精製などを主なミッションとし、微細藻類の育種から、育種拡大、濃縮、消毒、凍結乾燥、抽出までの合計6つの生産ラインをそろえている。
3社目の上海鯨藻生物は、「微細藻類による飼料」という領域に焦点を当て、微細藻類から抽出された天然アスタキサンチンの飼料市場での応用をさらに開拓する。
徳和生物の養殖基地の様子
(画像は徳和生物のニュースリリースから)
注目したいのは、徳和生物の微細藻類原料は中国国内で販売されているだけでなく、米国、日本、タイ、マレーシア、南アフリカなどにも輸出されていることだ。同社は28年まで(=5年以内)に微細藻類の分野でトップ企業になることを目標とし、高付加価値の微細藻類原料とその周辺製品を世界に提供し続ける。一方、同社は中国を拠点に、積極的に国内外の市場を拡大し続け、世界における微細藻類養殖のためのソリューションも提供していく。
徳和生物のプロダクト一覧
(画像は徳和生物のニュースリリースから)
芯宿科技(atantares)
【会社概要】
芯宿科技(atantares)は、21年2月設立の中国スタートアップ企業で、半導体技術を合成生物学の領域に応用し、最先端のDNA合成技術の開発に取り組んでいる。同社は23年7月31日にシリーズPre-Aで1億元(約20億2000万円)の資金調達に成功した。
今回の投資には、アリババ集団傘下の医療健康プラットフォーム「阿里健康(アリヘルス)」や、スマートコンピューティングと生命科学の融合領域にあるアーリーステージの企業に特化したインキュベーションと投資に焦点を置くVC「芯航資本(NeuX)」、そして製薬・医療健康の上場企業「複星医薬(FOSUN)」傘下で初めての新薬イノベーションファンド「複健資本(FOSUN HEALTH)」が参加している。同社は、今回の資金調達を受けて、主に製品開発とサービスの運営、さらには生産能力の拡大を推進していく。また、新たな資金調達もまもなく開始される予定だ。
【プロダクト】
芯宿科技は分子レベルの集積回路を用いて、これまでの「バイオチップ」(マイクロ流体工学と微小電気機械システム、MEMS)を基盤とした「分子チップ」を開発し、バイオテクノロジーの半導体化を推進し続けている。同社は、CMOS(相補性金属酸化膜半導体)チップに基づき、原料、設備および技術要素を安定かつ高効率な自動化遺伝子合成のスマート生産システムとして統合。これにより、DNA合成のコストを削減し、顧客により多くのハイスループット(処理速度が速い)合成能力を提供する。
芯宿科技は21年以来、ハイスループットのDNA合成技術に対して、原理実証だけでなく、卓上型ハイスループットDNA合成装置も開発している。同社の高い生産性を誇る低コストのチップ技術は、合成生物学、生物医学、検査、農業、データストレージなどの領域に応用することができ、同社が提供する合成製品は、バイオ医薬品、遺伝子配列決定、合成生物学などの分野で使用することができる。
芯宿科技の卓上型ハイスループットDNA合成装置
(画像は芯宿科技のニュースリリースから)
注目したいのは、芯宿科技は最近、合成生物学領域における中国のユニコーン企業である「藍晶微生物(Bluepha)」との間で、国内史上最大規模のDNA供給契約を締結したことだ。この契約では、芯宿科技が藍晶微生物に対して、最長30キロベース(遺伝子の大きさを表す単位)の巨大遺伝子(超長鎖遺伝子)を含む1億個の合成DNA塩基対を供給することが示されている。両社は、合成生物学におけるハイスループット研究開発のための技術標準についても、今後共同で協議をしていく予定だ。
芯宿科技と藍晶微生物がDNA供給契約を締結したことを表す図
(画像は芯宿科技のニュースリリースから)
拓烯科技(TopOlefin)
【会社概要】
拓烯科技(TopOlefin)は 、20年1月設立の中国スタートアップ企業で、先進的でクリーンかつスマートなハイエンドポリマー新素材の研究開発および生産に従事している。同社は23年7月21日にシリーズBで10億元(約202億円)の資金調達に成功した。
今回の投資には、中国国有資本を背景とする市場志向の専門投資機関「熙誠金睿(XICHENG JINRUI)」と新ポリマー素材や石油・ガス田サービス、そして現代農業分野への投資に注力している「雷石投資(RSC)」、上場済みの金属構造メーカー「利柏特(LBT)」などが参加している。同社は今回の資金調達を受けて、第2期の生産ラインの建設を推進していく予定だ。
【プロダクト】
現在川中、川下の応用シーンにおいて、主に光学レンズに使用されているハイエンドの光学樹脂材料を例として挙げよう。これらの材料に対する中国市場のニーズは世界のニーズの70%以上を占めている。だが、このような材料は依然として100%日本からの輸入に依存している。
拓烯科技は、ハイエンドポリマー素材におけるモノマー合成、高効率触媒システム、重合プロセス、特許という、従来、ハイエンドポリマー素材を国内生産するうえで立ちはだかっていた4つのボトルネックを、全面的に突破した中国唯一の企業だ。同社は、高価値のハイエンド光学・医療用樹脂とエンジニアリングプラスチックに焦点を当てており、SOOC(環状オレフィンコポリマー)、TOPC(光学グレードカーボネートコポリマー)、TOPM(光学グレードアクリルコポリマー)、HPMP(メチルペンテンポリマー)という4つの製品マトリックスを構築している。同社が、中国のこれらの分野における技術の空白を埋めている状況だ。
さらに拓烯科技は、4つの主要製品マトリックスに基づき、高性能ポリマーの研究開発・製造プラットフォームを構築することで、製品の研究開発から生産、供給に至る包括的なシステムを確立。精密光学、スマート端末、生命科学、新エネルギー、包装材料、自動車産業といった“川下”に当たる応用シーンに、革新的な材料ソリューションを提供している。
拓烯科技のSOOC粒子
(画像は拓烯科技のニュースリリースから)
注目したいのは、拓烯科技は、工業化の面において、パッケージ開発(市販目的のアプリケーションソフトウエアを開発すること)、高精度プロセス制御、大規模設備の取り扱い、全プロセスの品質管理という4つの能力を有していることだ。
拓烯科技は23年6月30日に、3000トンの年間生産能力に相当するSOOC特殊環状オレフィンコポリマーの第1期の生産ライン建設プロジェクトを完成させ、同年第3四半期に正式に生産を開始する予定。同社が計画している3つの生産ライン建設プロジェクトにおける合計生産能力は、年間生産量2万1000トン、総生産額は年間約50億元(約1010億円)に達する見込みだ。
拓烯科技の生産ライン
(画像は拓烯科技のニュースリリースから)
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