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質子汽車(ZHIZI AUTOMOBILE TECHNOLOGY)
【会社概要】
質子汽車(ZHIZI AUTOMOBILE TECHNOLOGY)は、22年4月設立の中国スタートアップ企業で、新エネルギー自動車の完成車の設計・製造・販売サービスを提供している。同社は23年10月30日にシリーズBで5.5億元(約114億4000万円)の資金調達に成功した。
今回の投資には、主に自動車分野に特化したPEファンド「徳載厚資本(VIRTUE CAPITAL)」や先進製造領域などに注目した国有資本の背景を持つ投資ファンド「西投控股(XIHC)」、そしてエンジェル投資に特化した国有系ハードテック投資インキュベーションプラットフォーム「中科創星(CASSTAR)」などが参加している。
質子汽車は今回の資金調達を受けて、ここまで継続してきた健全な発展をさらに推進し、かつより深いリソースを活用して、持続可能な発展を実現していく。
質子汽車のシリーズB資金調達認証式の様子
(画像は質子汽車のニュースリリースから)
【プロダクト】
質子汽車は、商用車のスマート化、電動化、あらゆるものがネットにつながるIoT化、軽量化に注目し、新エネルギー商用車の研究開発、運営、そして販売を行っている。同社の事業は、新エネルギーやスマートIoT、新素材の技術研究から、新エネルギー車や自動車部品の研究開発、さらに自動車部品(付属品)の製造および新エネルギー車や自動車部品の販売などまでカバーしている。
質子汽車は新エネルギーとスマートIoTを特徴とした技術力を既に自社内に蓄積しており、大型トラックから小型トラックまでの全スマート商用車の開発プラットフォームを形成している。同社製品は、純電気駆動と水素燃料電池駆動の2大技術をカバーし、合計145種類の製品の開発を終えている。
上から質子汽車の水素燃料電池レッカー車、水素燃料電池ダンプカー、水素燃料電池軽トラックの外観
(画像は質子汽車のニュースリリースから)
注目したいのは、質子汽車が中国の新エネルギー商用車市場でその存在感を徐々に拡大させていることだ。23年6月30日までに、同社の新エネルギー大型トラック領域での市場シェアは、22年の2.43%から6.49%に拡大。そのうち、水素燃料電池の大型トラック分野での市場シェアは30.49%に達し、23年上半期の累計販売台数は、業界2位となっている。
また、質子汽車は、23年6月20日に中国コンサルティング大手である長城戦略コンサルティングによって発表された『中国ユニコーン企業研究報告2023』において、中国における潜在的なユニコーン企業としても選出されている。
質子汽車は今後、水素燃料電池や自動運転、固体電線制御シャーシ、マグネシウム軽量化といった有利なリソースを利用し、25年には、水素燃料とバッテリー交換市場に焦点を当てながら、複数の都市群にて事業展開を進めていく。その後、26年には、西北地域や華中・華北地域、西南地域、そして華東地域の4大地域をはじめとした市場にも進出し、中国全土の市場をカバーしていくという。
直近の23年10月18日には、新車種の発表会およびシリーズBの資金調達発表会で、5つの新しい完成車種「帝江」「赤輪」「白景」「赤光」「青驍」と新しいコンセプトカー「曜霊」を発表している。
質子汽車が23年10月18日に発表した新エネルギー商用車のラインアップ(画像は質子汽車のニュースリリースから)
微霊医療(WE-LINKING)
【会社概要】
微霊医療は、19年4月に設立された中国スタートアップ企業で、医療用完全体内埋め込み型無線BMIシステムの開発を手掛ける。同社は23年11月1日にエンジェル投資で数千万元(数億円)の資金調達に成功した。
今回の投資には、新消費や新技術などの領域に注目したVC(ベンチャーキャピタル)「高榕資本(GAORONG CAPITAL)」や、医療健康領域のみに注目してエンジェル投資を行っている「斉済投資(TTM CAPITAL)」、主に医療健康や先進製造などの領域に対して投資を行っているPE「鼎暉投資(CDH FUND)」などが参加している。微霊医療は今回の資金調達を受けて、医療用完全体内埋め込み型BMIシステムの開発を進めていく。
【プロダクト】
微霊医療は、BMIの全プロセスにおいて、基礎ハードウエアとソフトウエアシステムの研究開発を既に終えている。ハードウエア面では、高密度で柔軟性の高い神経センサーアレイ、収集・刺激一体化クローズドループ神経電子チップ、小型化された数千チャネルの脳コンピューター情報インタラクション、脳情報用無線トランシーバーといった主要コンポーネントを含む。ソフトウエア面では、前処理アルゴリズム、デコード分析アルゴリズム、そして脳のような制御アルゴリズムなどを含む。
微霊医療は、BMIの全プロセス技術を掌握した上で、プロトタイプ製品の実行性および機能性のテストを完了。そして、埋め込み可能な電極、神経用電子チップ、双方向BMIという3つのコア技術モジュールに焦点を当て、臨床試験用プロトタイプ製品の発売準備に着手している。今後3年以内に、臨床試験を開始する予定だ。
この臨床試験用プロトタイプ製品は、まず、人間の局所的な神経機能を代替することを目指す。例えば、ロボットアームを操作するためのBMIや視覚の再構成、音声の再構成などに活用し、運動障害(脳卒中、脊髄損傷、ALS[筋萎縮性側索硬化症]など)の患者をサポートすることができる。その後、精神疾患の的確治療への応用も見込まれるという。
注目したいのは、杉木の製品・サービスが、中国国内では初めてであり、国外でも競合他社が唯一1社しかいない取り組微霊医療のBMIによる応用事例の一部(微霊医療のHPから)
注目したいのは、中国国内で埋め込み型BMIを取り扱う企業やその事例が少ない中で、微霊医療が、埋め込み型BMIのプロセスに必要な技術を全て把握している企業であることだ。
埋め込み型BMI技術は複数のステップから構成される。まず、神経信号を神経センサーで取得。次に、専用の神経電子チップを通じて神経データをデジタル化し、デジタル化された信号について前処理を実行する。
それと同時に、コンピューターで準リアルタイムのコンピューティングを通じた複合技術により、神経データを取得。最後に、得られたデータを特定のアクチュエーター(振動部品)で表現し、相互作用効果などを示す。微霊医療は、それぞれのステップにおいて、対応する技術を開発済みだ。
微霊医療の埋め込み型BMIを使用しているシーンのイメージ(画像は微霊医療のHPから)
瑞雲冷鏈(Ruiyun Cold Chain)
【会社概要】
瑞雲冷鏈は、20年5月設立の中国スタートアップ企業で、コールドチェーン産業の効率性向上に注力。同社は23年11月13日にシリーズAで5億元(約101億5000万円)の資金調達に成功した。
今回の投資には、先進製造やEC領域などに主に注目したPEファンド「金鼎資本(JINGDING CAPITAL)」や、世界的に影響力を持つ基金管理企業である富達国際(Fidelity International Ltd.)傘下で、物流や企業サービス領域などに投資を行っているPEファンド「斯道資本(EIGHTROADS)」、そして国有企業の後ろ盾を持つPEファンド「招商局資本(CM CAPITAL)」などが参加している。
瑞雲冷鏈は今回の資金調達を受けて、コールドチェーン小口配送車の運送ネットワーク強化、デジタル化プラットフォームの研究開発、業界の統合とM&A(合併・買収)に資金を使用していく。
【プロダクト】
瑞雲冷鏈は、物流のデジタル化、プラットフォーム化、そしてネットワーク化というそれぞれの事業に注力している。同社は、ネットワークとプラットフォームの能力をデジタル化で統合し、コールドチェーン物流のオンライン取引とオーダーのオンライン化運営を形成した。これにより、全プロセスを可視化させたサービスをコールドチェーン産業の川上の顧客に提供している。
瑞雲冷鏈が業界の課題から導き展開する製品・事業マトリックス(出所/瑞雲冷鏈の情報に基づき、匠新が整理)
ネットワーク化については、瑞雲冷鏈は20年9月に営業を開始して以来、迅速に中国最大のコールドチェーン小口配送車運送ネットワークの構築に成功した。同ネットワークは今、33の物流トランジットセンター、115の基幹ルート、40以上のビジネスパートナー企業、200の加盟店などを有している。
また、同ネットワークは、中国国内で全国1600以上の区および県をカバー。これにより、最短2日から3日で配達を完了できるほか、1日の処理可能な貨物取扱量は最大5000トン以上にもなるという。
瑞雲冷鏈ネットワークの全国分布(画像は瑞雲冷鏈のHPから)
プラットフォーム化については、瑞雲冷鏈はコールドチェーン運送能力のオンライン取引プラットフォーム「冷運宝」を開発した。冷運宝は、アプリとミニプログラムを通じて、「取引+配送+決済+納税」を一体化したオンライン総合サービスを提供している。
ビッグデータと独自のアルゴリズムを通じて、荷主側と輸送側を効率的にマッチングさせ、リソースを効率的に配分できる。現在、9万人以上の荷主と14万人以上のドライバーを抱え、コールドチェーン業界における普及率は35%以上となっている。
デジタル化については、瑞雲冷鏈は、業界内で10年以上にわたって培ってきたデジタル物流企業のノウハウを統合し、子会社「冷運通」を設立済みだ。
冷運通は、コールドチェーンのデジタル化・スマート化プラットフォームで、コールドチェーン園区からコールドチェーン物流企業、そしてコールドチェーン貨主をつなぐ「SaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)貨物運送プラットフォーム」というクローズド・ループ・ビジネスモデルを構築済み。同モデルにより、取引・交流・運用が一体化したコールドチェーン物流のデジタル変革を促進している。
注目したいのは、瑞雲冷鏈が設立したデジタル化・スマート化プラットフォームの冷運通だ。冷運通は、コールドチェーンの「取引」と「配送」の2大シーンをめぐり、4つのコア製品である「コールドチェーンスマート園区総合管理プラットフォーム」「コールドチェーン取引・生産・供給・販売一体化プラットフォーム」「コールドチェーン物流倉庫・運輸・配送一体化プラットフォーム」「ネットワーク貨物輸送デジタル化産業園区サービスプラットフォーム」から構成されている。
冷運通は4つのコア製品を通じて、川上と川下の関連企業をつなぎ、全プロセス・全要素のスマート化を実現することで、コールドチェーンの連係・追跡に伴う困難を効率的に解決している。
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