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極速能源(Speedy Energy)
【会社概要】
極速能源(Speedy Energy)は、23年3月に設立された中国スタートアップ企業で、燃料油の供給に特化したITソリューションを提供している。同社は23年10月3日にシリーズPre-Aで500万元(約1億400万円)の資金調達に成功した。
今回の投資には、米国投資銀行INDICATOR傘下の中国拠点「盈達資産」が単独で参加している。極速能源は資金調達を受けて、主にスマート給油移動配送車両の配備とデジタル情報管理システムの開発を進めていく。
また、極速能源傘下のスマートガソリンスタンド給油移動配送サービスプラットフォームである「油奔奔(ヨウボンボン)」の創業者兼CEOである王徳博(ワン・ダーボー)氏は、今回の投資には、単純な資金提供の他に、会社のチャネルリソースや産業内での連携、将来の業務の見直し、そして株主の整理などの面で大きな戦略的意義があると話している。
例えば、INDICATORの傘下には国際貿易業務や物流業務が存在する。これらのリソースは、油奔奔がエネルギー産業サプライチェーンエコシステムを発展させる上で不可欠になるとも考えている。
【プロダクト】
既存の給油シーンでは、多くの運転手がガソリンスタンドの面積や車両設備の体積などの理由で、ガソリンスタンドに入って給油を行うことができない場合がある。とりわけ、インフラ建設のために使用される資材設備や農業用地開墾のための備品設備、大型で特殊な資材を保管する設備などで利用される輸送車両や、物流園区内に駐車されている物流車両などは、一般のガソリンスタンドでの給油が困難になりがちだ。そこで、移動式給油が、これらの現場における主流の給油方式になりつつあるという。
その移動式給油のITソリューションを提供しているのが、極速能源傘下のエネルギーサプライチェーン一体化ソリューション企業である油奔奔だ。油奔奔は、主に鉱業や建設業の現場における商用大型非可動式機械設備の燃料油使用シーンなどを対象にサービスを提供してきた。
油奔奔は、軽油市場におけるサービスの経験と調査分析に基づき、T2B2C(テック企業から企業ユーザーへ、企業ユーザーから消費者へというビジネスモデル)に基づく技術プラットフォームをコア能力としながら、企業ユーザーおよび消費者の両方を対象とした給油移動配送サービスを設計している。
製油所やガソリンスタンド、そして燃料油の運送企業との連携を通じて、ワンタッチで完了するいわゆる「出前式」の給油方式を提供し、燃料の宅配サービスを実現。加えて、油奔奔の給油サービスを通じて得られる燃料油の安全性は、ユーザー自身がアプリを通じて確認できる他、企業の給油コストを効果的に削減することにもつながる。
油奔奔が開発した給油移動配送サービスのアプリ画面。
上がユーザー用、下が運転手用。
(画像は油奔奔のニュースリリースから)
注目したいのは、極速能源は長期的に見て大幅な成長が見込まれていることだ。同社は、23年9月末時点で、主に鉱業や建築業の顧客を対象としており、その中には山東高速集団(SDHS)、山東路橋集団(SHANDONG LUQIAO)、山東鋼鉄集団(SHANDONG IRON&STEEL)、国舜集団(GUOSHUN)、成都公交集団(CHENGDU PUBLIC TRABSOPORT)などの大手企業がいる。
これらの企業を含め、油奔奔が提携先となっている企業は合計80社、登録済みの給油ユーザーは5万人に達しているという。同社の流通取引総額(GMV)は22年に2億1000万元(約43億6800万円)に到達。24年には、10億元(約208億円)以上を実現する見込みとなっており、中国全土の大部分でサービスを提供できる体制を整える計画だ。
油奔奔が運営する燃料油の運送車両の様子(画像は36Krのニュースリリースから)
杉木(SHANMU)
【会社概要】
杉木(SHANMU)は、20年5月に設立された中国スタートアップ企業で、家庭用マイクロAI(人工知能)健康管理ロボットの研究開発を手掛ける。同社は23年10月11日に戦略投資で数千万元(数億円)の資金調達に成功した。
今回の投資には、家庭用サービスロボットのベンダー企業である「雲鯨智能(NARWAL)」が単独で参加している。杉木は資金調達を受けて、サプライチェーンの構築や医療AIモデルのトレーニング、製品の研究開発、そしてマーケティングチームの構築を進めていく。
【プロダクト】
人体が毎日排出する尿には、腎臓がろ過した血液中の代謝物質が大量に含まれている。その種類は、約4500種余りある。これらの代謝物質は、約600種の人体の状況と密接に関連しており、肥満、がん、炎症、神経系疾患、感染症など、その他多岐にわたる症状に関連している。
また、妊娠や排卵、尿路感染症(尿の通り道である尿道口から菌が侵入し、体内で繁殖する感染症)、飲食、そして運動は代謝物の質を左右する要因であり、こうした要因の特性も尿を分析することで観察可能だ。実際、尿検査は現在までに、10種類以上の医療臨床測定や多種の疾病データ分析に用いられているという。
杉木は、まさにこの尿の役割と用途を利用した全自動化マイクロフローセンサーを設計している。このセンサーを搭載した家庭用マイクロAI健康管理ロボットは、あらゆるタイプの便器に設置することができ、20種類以上の尿成分や代謝物成分を非接触形式で検知およびモニタリングできる。
このモニタリングを通じて得られたデータをユーザーの過去の遺伝子データや先天性疾病および疾病の経験を総合して判断材料とし、糖尿病やぼうこうがん、腎炎などの20種類以上の肝腎臓疾患の周期予測をユーザーのために実施。こうして、ユーザーに疾病予測や診断、その結果に基づく処方箋のアドバイス、そして健康管理などの複合的な質の高い医療サービスを提供することにつなげている。
杉木が設計する全自動化マイクロフローセンサーを搭載する家庭用マイクロAI健康管理ロボット
(画像は杉木のニュースリリースから)
注目したいのは、杉木の製品・サービスが、中国国内では初めてであり、国外でも競合他社が唯一1社しかいない取り組みであることだ。同社は、在宅健康分野で尿を検査対象とし、自社研究開発した医療ロボットおよびAIのアルゴリズムにより、ユーザーを邪魔しない、持続的な周期性検査を実施可能とするサービスを実現している。
このような水準のサービスを通じて、一般ユーザーに対して医療健康データ分析を提供するのは中国国内では初の事例であり、国外ではフランスに同類の1社が競合企業として存在するのみ。つまり、同社は、国際的にも空白となっている市場の開拓を目指して、様々な試行錯誤を実施できる状況にある。
実際、23年8月時点で、杉木は既に海外展開を計画しているという。欧米諸国では、家庭医(地域住民の健康のために働く総合診療医)が主に地域住民の健康を管理しており、受診者は家庭医の紹介を得てから、病院を受診して初めて本格的な医療サービスを受けることができる。病院での診療の条件として、まずは家庭医の受診があるため、病院で受診したいという地域住民のニーズを迅速にかなえるのは難しいのが現状だ。
杉木の家庭用マイクロAI健康管理ロボットは、欧米諸国の人々の病院受診に伴う、こうした困難をよりよく解決できる。同社は米国クラウドファンディングサイト「Indiegogo(インディゴーゴー)」と自社の独立運営サイトで、消費者に対して自社製品の普及を図っていく計画だ。その海外展開を前に、同社は、データ保護を目的とした基地局を設立済みだとしている。
杉木の家庭用マイクロAI健康管理ロボットが実際に使われるイメージ(画像は数科邦のニュースリリースから)
小馬智行(Pony.ai)
【会社概要】
小馬智行(Pony.ai)は、16年12月設立の中国スタートアップ企業で、自動運転ソリューションを提供している。同社は23年10月24日にシリーズD+で1億ドル(約147億円)の資金調達に成功した。
今回の投資には、サウジアラビアで建設が進む次世代都市(スマートシティー)「NEOM(ネオム)」傘下の投資ファンドNIF(NEOM Investment Fund)が単独で参加している。小馬智行は今回の資金調達を受けて、海外に向けた自動運転技術の研究開発とオペレーションの強化などを進めていく。
同時に、サウジアラビア北西部に位置するスマートシティーにネオムと共同で合弁会社を設立。同社はこの合弁会社を足がかりとして、サウジアラビアのスマート都市のみならず、中東および北アフリカ地域に向けた自動運転の研究開発および製造を展開。加えて、自動運転サービスチームおよびスマート自動車関連のインフラの配置を行う予定だ。
小馬智行のCEO(最高経営責任者)である彭軍(ペン・ジュン)氏とネオム傘下の投資ファンドNIFのCEOであるMajid Mufti(マジド・マフティ)が握手を交わす様子(画像は小馬智行のニュースリリースから)
【プロダクト】
小馬智行は、北京市と広州市の両都市において自動運転タクシー(ロボタクシー)によるモビリティーサービスを展開している中国国内初の企業である他、国内で初めて4大一線都市(北京市、上海市、広州市、深セン市)での自動運転無人化テストの実施に成功した企業だ。
さらに、当時世界で初めて中国および米国の2カ国を舞台として、ロボタクシーのモビリティーサービスを打ち出した企業でもある。23年10月中旬までには、2500万キロ以上の自動運転走行距離を達成している。
小馬智行が上海錦江集団傘下のタクシーサービス運営企業「錦江出租」と中国上海市にて提供する
ロボタクシーサービス利用シーンの様子(画像は小馬智行のニュースリリースから)
その実力は、海外大手メディアも認めている。米CNBCが発表した22年の世界「Disruptor 50(ディスラプター50)」ランキングで、小馬智行は世界第10位にランクイン。同社は、自動運転領域において、唯一ランクインした企業となっている。
注目したいのは、トヨタ自動車と進めるロボタクシー事業だ。小馬智行は23年8月4日、トヨタ自動車(中国)投資公司、トヨタ自動車と中国自動車大手「広州汽車集団(GAC)」の合弁会社である「広汽豊田汽車(広汽トヨタ)」と署名式を開催。3社は共同で合弁会社を設立し、将来のロボタクシーの量産化および事業の大規模化を進めていくことを発表した。
合意内容によれば、投資額は10億元(約208億円)以上で、合弁会社は23年中に設立予定。この合弁会社は、広汽トヨタがロボタクシー専用に生産する純電気自動車を提供する予定だ。小馬智行は、これらの車両に対して、自社の自動運転システムを搭載。同時に、現在、安定しているロボタクシー運営プラットフォームを通じて、乗客に安全で安心な自動運転モビリティーサービスを提供していく。
小馬智行は23年8月4日、トヨタ自動車投資公司、広汽豊田汽車と共同で合弁会社を設立し、
将来のロボタクシーの量産化および事業の大規模化を進めていくことを発表
(画像は小馬智行のニュースリリースから)
その約3カ月後には、ロボタクシー事業の新たな進展を公開した。小馬智行は23年11月上旬に上海で開催された中国国際輸入博覧会にて、トヨタ自動車と共同でロボタクシーのコンセプトカーの実物を披露。このコンセプトカーは、広汽トヨタが生産した純電気自動車「bZ4X」に基づいて設計されている他、小馬智行が開発した第7世代レベル4(特定の条件下で運転手を不要とする)自動運転乗用車ソフトウエア・ハードウエアシステムを搭載している。
現在、小馬智行を含む3社は、既にこのロボタクシー専用車種をめぐり、研究開発面における連携を展開中だ。同車種は、合弁会社が今後、無人運転モビリティーサービスの大規模な実用化を推進する任務を担う、最初の車種となる見込みだ。
小馬智行が中国国際輸入博覧会にて、トヨタ自動車と共同で披露したロボタクシーのコンセプトカーのイメージ
(画像は小馬智行のニュースリリースから)
橙仕汽車(CHESH)
【会社概要】
橙仕汽車(CHESH)は18年2月設立の中国スタートアップ企業で、新エネルギー自動車の完成車設計・製造サービスを提供している。同社は23年10月30日にシリーズBで10億元(約208億円)の資金調達に成功した。
今回の投資には、主に物流企業に特化したPE(プライベートエクイティ=未公開株)ファンド「隠山資本(HIDDEN HILLCAPITAL)」や主に先進製造領域に特化した広東省深セン市のPEファンド「遠致投資(SZ Capital)」、そして中国のリチウム大手「江西韓鋒鋰業(ガンフォンリチウム)」などが参加している。
橙仕汽車は今回の資金調達を受けて、自社の自動車製品の研究開発や、市場の開拓、サプライチェーンの強化などを進めていく。今後は、世界でも競争力のある純電気自動車(BEV)、スマート物流車を研究開発および製造し、グローバル市場への進出を加速していく予定だ。
【プロダクト】
橙仕汽車は、新エネルギー中小型商用車の研究開発と製造を手掛け、物流業者に対してコストパフォーマンスの高い純電気自動車を提供している。データ、コンピューティング、アルゴリズム、応用シーンの4つの要素の統合を通じて、末端物流のスマート化を促進。同社の物流車両は23年10月末までに、中国全土で170以上の都市と世界の10以上の国・地域で使用されている。
その利用シーンは、宅配便の配達や商業施設・スーパーマーケットの配送、移動販売、生鮮物の配送、健康・感染症対策、在宅サービス、都市行政における法的管理などと幅広い
橙仕汽車が手掛けるシリーズ「01」は、末端物流シーンに最適な製品として、中国国内の新エネルギー中小型商用車市場の空白を埋めている。この車種は、末端物流の効率化、シーン化、グリーンスマート化車両の領域において代表的な製品となっているという。
橙仕汽車が手掛けるシリーズ「01」(左)と「X2」(右)の外観(画像は橙仕汽車のニュースリリースから)
直近では23年8月1日、新車種「X7」の発表会を実施。プロジェクト総責任者である陳元章(チェン・ユェンジャン)氏によれば、「X7」は中型トラックで使用される最大電圧60キロワットの高出力モーターを採用し、最高時速85キロメートルを出力できる。大きくて重たい荷物を配送するときにもユーザーの心配をなくせる他、長い坂道や急斜面の道路に耐えられる動力を兼ね備えている。
また、標準装備の電池の容量は28.8キロワット時で、航続可能走行距離は最高201キロメートルに達する。とりわけ重要なのは、同車種は1時間で80%の急速充電が可能なこと。充電を素早く完了することができ、ユーザーの商売の時間を無駄にしないように配慮している。
23年8月1日に行われた橙仕汽車の新車種「X7」発表会の様子(画像は橙仕汽車のニュースリリースから)
注目したいのは、橙仕汽車が、既に多くの中国物流大手と連携し、物流車両の面から、このところ成長し続けている物流配送の業務量を、環境にも配慮した形で、支えていることだ。
その代表的な例として挙げられるのが、中国最大のネットショッピングセール「Tモール・ダブルイレブン・グローバル・ショッピング・フェスティバル(天猫ダブルイレブン)」の期間だ。中国国家郵政局のデータによれば、全国の郵便配送企業が受注した配送荷物数は23年11月11日、6億3900万件に達し、通常の1.87倍、前年同期比で15.76%増加した。
23年11月1日から11日にかけては、その配送荷物数は52億6400万件となり、前年同期比で23.22%の増加となった。1日当たりの平均配送荷物数は通常時の1.4倍になったという。
こうして増える物流配送の業務量に対応するため、橙仕汽車は、中国EC大手「京東(JD)」や中国国営郵便大手「中国郵政(China Post)」、そして中国物流大手「順豊(SFエクスプレス)」などの物流会社と連携し、天猫ダブルイレブンの宅配配送期間中に同社の車両を現場に投入している。
橙仕汽車の新エネルギー中小型商用車が中国物流企業各社の現場に導入されている様子
(画像は橙仕汽車のニュースリリースから)
年々増加する物流配送の業務量を追い風に成長している橙仕汽車は、「01」から「X2」、そして新車種「X7」までの製品ラインアップをそろえる。異なる車種に異なる電池容量や航続距離、時速などを設定することで、末端配送および短距離型の都市配送シーンの多様なニーズに細かく対応する。同社は今後、市場・ユーザーのニーズに応じて、その他の車種の研究開発を続け、より完備された末端物流エコシステムの構築を進めていく。
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