2021年3月9日(火)に中国双創ナイトをzoomによるオンラインでのウェビナー形式で開催しました。第26回目となる今回は、「日系大企業のイノベーションの落とし穴 & アリババの持続的イノベーションの秘訣」をテーマに行いました。
本イベントの登壇者は、「オープン・イノベーションの教科書」の著者であり三井金属とマッキンゼーの勤務を経てナインシグマジャパン設立への参画のご経歴をお持ちの星野氏と、ジェトロ初の中国籍海外投資アドバイザーのご経歴をお持ちで日本中小企業診断士の王氏の2名にお越しいただきました。
【画像1】登壇者のお二人
両名はジャンシン(匠新)が主催する日中オープンイノベーション研修プログラム(基礎編)「匠新塾」(http://www.takumi.ltd/jxj)の講師も務められております。
今回のイベントの様子をジャンシン(匠新)インターン生の三浦慎之介がレポートいたします。
1人目の登壇者はノーリツプレシジョン株式会社代表取締役 星野達也氏です。まず、星野氏はオープン・イノベーションを簡略化し「自前主義の逆」「他力活用」「企業関連携」と表現しました。この背景にはメーカーが今の変化の速い時代においては自前主義での研究開発では時間が足りず、必要に応じて社外のリソースを活用するという考えがあります。
オープン・イノベーションには画像2のように分類されますが、今回の登壇ではA)技術探索型(インバウンド型)に焦点をあてています。
【画像2】オープン・イノベーションの形
星野氏が立ち上げに携わった「ナインシグマ」では、画像3のように技術を求める顧客と技術を持つ企業や大学、研究所、スタートアップの仲介を行なっていました。
【画像3】技術仲介業としてのオープン・イノベーション支援
この際、「技術探索型オープン・イノベーション」と「技術提供型オープン・イノベーション」の2種類がありますが、メインは前者になります。その理由は、ニーズ起点の方がマッチしやすく、イノベーションが起きやすいからです。実際にマッチングを行なったオープン・イノベーションの例として、
・のどごしを追求したビール開発のニーズ×医療ベンチャー、軍事ベンチャーの持つ技術
・自動車製造における振動低減のニーズ×天文台の技術
・衣類のシワ防止ニーズ×半導体の技術
が挙げられました。
登壇中、星野氏は1つ目のビールの例について詳しくご紹介くださいました。
まず、課題だったのはビールの「のどごし」という概念自体が日本でしか通用せず、技術を持った企業を探す際には「飲食物を飲み込んだ際の“のどの感覚”を評価する技術募集」と呼びかけを行いました。その結果、アメリカから医療ベンチャー、イギリスから軍事ベンチャーが集まりました。前者は嚥下障害を持つ高齢者や障碍者の方の流動食を研究をしており、そのための喉の感覚を評価する技術を持っています。後者は戦場で声を出さずに意思疎通を行う研究をしており、そのための喉の筋肉の動きを評価する技術を持っています。
このように、それぞれ通常では関わることのない規模も業種も違う企業が組んで新たな価値を想像することに面白みがあると星野氏は語りました。しかしその後、星野氏は地方の中堅メーカー「ノーリツプレシジョン株式会社」の代表取締役に転身し、ご自身が中堅メーカーに身を置きながらオープン・イノベーションを実践するにあたって感じた大企業側の課題として、下記を挙げています。
・意思決定の遅さ
・リスクを取れない企業体質
・コミュニケーションの問題
これらの点を改善するためにも、大企業側が「意思決定のスピードを意識すること」「相手へのリスペクトを持つこと」が非常に重要になります。
最後に、星野氏はやはり社外連携は非常に困難であり、衝突も日常茶飯事としながらも、それを乗り越えた先にインパクトのある改革を起こせると強調されました。
特に中国におけるオープン・イノベーションの加速は歴史的、地理的、文化的親和性の比較的高い日本にとって最後のチャンスだとも表現されました。この流れを逃さないよう、スピード感を意識したいです。
2人目の登壇者は王浙(ワン・シー)氏です。今回は王氏が扱ってくださった数々のエピソードの中でも、アリババのTmall発展の裏側、ジャックマーの考えと企業風土、そして人材育成について取り上げていきたいと思います。
現在有名なTmallのB2C事業は内部の競争制度から発展しました。2004年アマゾンの中国進出や京東の躍進でB2C市場が注目されました。それに伴いアリババも2006年にB2Cに進出を決めました。しかし当初C2Cのタオバオがメインだった社内ではB2Cの注目度が低く、少ない予算しか割り当てられず、さらにメンバーは20人しか集まらなかったそうです。
そんな中、現在のアリババを率いている当時のB2C部門のリーダーが「せっかくだから楽しく仕事をしよう!」という呼びかけで2009年に始めたのが毎年11月11日に行われるセールである「独身の日」です。元々、冗談まじりのイベントでしたが、初回に27社のテナントが参加して以来成長を続け、2020年の流通取引総額は4982億元(約7.9兆円)、1秒あたりの最大注文数は58.3万回/秒を記録しています。そんなB2C部門の大成功に対してジャックマーも「今のアリババがあるのは君たちのおかげだ」と称賛するほどです。
【画像4】ジャックマーのカリスマ性
王氏によると、このような活動を推進する風土の背景にはジャックマーの考えが大きく影響しているようです。画像4のようにジャックマーは進化を愛し、仕事を楽しみ、創造していくことを掲げています。また、企業のビジョンを徹底し、それに反することは行わないようにし、社員に対する企業文化の研修を設けています。アリババを人材育成は画像5のようになっており、意欲的な人材を流動性のある環境に受け入れています。
【画像5】アリババの「人材」育成と抜擢方法
特に注目すべきなのは、アリババは優秀な経営者を輩出しており、それぞれと長く交流を持ち続けている点です。それに加え、子会社を含め現在の主要な経営陣には元々オフィスで受付を担当していた人がいるなど、彼らの存在が社員のモチベーション向上に貢献している点にも注目です。
このような仕組みとそれによって優秀な社員が活躍することで持続的なイノベーションを実現しています。
最後のQ&Aセッションでは視聴者の方から寄せられた質問に対して登壇内容の具体例を用いながら、弊社CEOの田中を交えてインタラクティブな意見交換を行うことができました。
ジャンシン(匠新)は今後も、毎月開催している「中国双創ナイト」をはじめとする各種イベントはZoom等を用いてオンライン開催にする予定です。参加も無料で、他ではなかなか聞けない中国の最新動向から、ビジネスにつながるイベントまで、豊富なコンテンツをご用意いたしますのでどうぞ気軽にご参加ください。
日時などの詳細情報は弊社HPやFacebookにて告知するほか、ジャンシンが配信している「中国イノベーション通信」でもお知らせいたします。
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Facebook:https://www.facebook.com/f.takumi.ltd
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